よく晴れたある日、オープン早々に麻布テーラーの電話が鳴りました。スタッフが出ると、受話器から流れてきたのはよく通る男性の声。「スーツを誂えたいんだが、予約をお願いできるかな?日時は1週間後の14時。私は聖林星一と申します。それでは…」
約束の日、時間きっかりに現れた聖林さん。一分の隙もなくスーツを着こなし、颯爽と歩くその姿はまさにエグゼクティブといった様子。
− ご来店ありがとうございます。本日はスーツのオーダーをご希望とのことで。
聖林 ええ、仕事柄、あまり派手な色柄ものは難しくてね。いつもはグレーの無地やストライプ柄を着ることが多いんです。
− そうですか。今日のライトグレースーツもよくお似合いですね。まるでケーリー・グラントのような。
聖林 おぉ、彼は憧れの俳優です。控えめなのに華がある。彼のようにスーツを着こなせたら最高だ。じゃあ今日はひとつ、ケーリー・グラント風をテーマにオーダーしてみるのはどうだろう。
− 素晴らしいアイデアですね。かしこまりました。