azabu tailor

スタイルがある男たちに聞くオーダーの作法

スーツを着慣れたバーテンダーに、着物なら一家言ありの落語家。正反対ながら確固たるスタイルをもつ2人の人物が麻布テーラーのオーダーにトライ。そこから見えてきたご両人の流儀とは?

Rogerio Igarashi Vazロジェリオ・五十嵐・ヴァズ/バーテンダー

1975年、ブラジル・サンパウロ生まれの日系3世。1994年に来日し、バーテンダーとしてのキャリアをスタート。恵比寿に構える「BAR TRENCH」の共同経営者であり、「アジアのベストバー50」「世界のベストバー100」など数々の栄誉を受ける名店に育て上げました。

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映画で見とれた“動いてこそ美しいスーツ”をカタチに
Rogerio Igarashi Vazロジェリオ・五十嵐・ヴァズ/バーテンダー

1975年、ブラジル・サンパウロ生まれの日系3世。1994年に来日し、バーテンダーとしてのキャリアをスタート。恵比寿に構える「BAR TRENCH」の共同経営者であり、「アジアのベストバー50」「世界のベストバー100」など数々の栄誉を受ける名店に育て上げました。

まるで映画の中から飛び出してきたような風貌で、バーテンダーの理想を体現する五十嵐さん。スーツはこれまで第二の皮膚と呼べるほど着込んできたそうです。

「 今の『BAR TRENCH』ではホワイトのジャケットを全員共通のユニフォームにしているのですが、その前はいつもスーツでカウンターに立っていました。ちなみに今でも、外で行うイベントや、ほかのバーにゲストバーテンダーとして招かれたときはスーツで出かけています。細かいところが気になるたちなので、オーダーメードのものが多いですね」
 そんな話しぶりからは、かなりのスーツ上級者であることが伝わってきます。麻布テーラーでのオーダーは今回が初めてだという五十嵐さん。ショップを訪れてまず伝えたイメージは、映画『フェラーリ』でした。

「BAR TRENCH」で提供される数々のオリジナルカクテル。そのなかでも人気なのが「トレンチ75」と名づけられた一杯です。シャンパンとジンで作る「フレンチ75」をアレンジしたもので、ジン・レモン・はちみつをベースとしつつ、シャンパンの代わりにスパークリング日本酒を用いているのが特徴。優しい発泡感がポイントです。

「アダム・ドライバーが演じるエンツォ・フェラーリのスーツ姿がとても格好よくて、大きなインスピレーションを与えてくれました。実は私、これまでグレーのスーツを一度も着たことがなかったのです。ほかに好きな色があるからという理由に加え、グレースーツは少々、落ち着いて見えすぎかなという懸念がありまして…。しかしフェラーリの映画をきっかけに、私もそろそろグレースーツが似合う大人になってきたかなと考えを改めました。シルエットも映画にならい、たっぷりとゆとりをとってクラシックに。パンツも股上深め・裾幅広めのワイドレッグにしたんですね。それから、いつもベストを着ていることもあってVゾーンは狭めが好みなので、段返りではなく3ボタン上2つがけにしました」
 そのツウなオーダーに、接客を担当したスタッフからも思わず感嘆の声が漏れていました。そして完成したスーツに袖を通した五十嵐さんの顔には、静かな笑みが。

シャツはタブカラーがお気に入りで、こちらもオーダー品。よく見ると襟に「Trench」の刺しゅうが。

「うん、イメージどおりですね。非常にベーシックなグレー無地ですが、少し光沢のある生地をすすめていただいたのが大正解でした。これなら照明の下でも映えますし、地味に見えることもないでしょう。シルエットもちょうどいい。しっかりとゆとりがありつつ、それでいてダボっと見えないバランスですね。映画『フェラーリ』のアダム・ドライバーを見て引かれたのは、止まっているところだけでなく歩いている姿まで美しいところ。それは適度なゆとり感がもたらしてくれるものだと思うのですが、このスーツならまさに、動いても絵になりそうです」

カウンターの中へ入ると、スーツを着たままシェーカーを振り始めた五十嵐さん。
「うんうん、いい感じ。実はオーダーのとき、スタッフの方が“シェーカーを振ったときにも窮屈にならないよう、胸周りにスペースをとってはどうか”と提案してくれたのです」
 シェーカーを振る動作は全身を使うかなりハードなもの。窮屈なスーツを着ていると、さらにその負担は増してしまいます。そんな五十嵐さんならではの課題を会話の中でスタッフが見出し、その解決策をご提案。これぞパーソナルテーラーの強みです。
「動いても快適なゆとりがあるのに、見た目にダボっとした感じはありません。オーダーならではの魅力だなと感心しましたね…さぁ、当店オリジナルのカクテル『トレンチ75』ができましたよ。どうぞご賞味あれ」

黄金色に輝くジガーカップは特注品。スムーズに材料を注げるよう、カップの角度をカスタマイズしているそう。

カウンターの中へ入ると、スーツを着たままシェーカーを振り始めた五十嵐さん。
「うんうん、いい感じ。実はオーダーのとき、スタッフの方が“シェーカーを振ったときにも窮屈にならないよう、胸周りにスペースをとってはどうか”と提案してくれたのです」
 シェーカーを振る動作は全身を使うかなりハードなもの。窮屈なスーツを着ていると、さらにその負担は増してしまいます。そんな五十嵐さんならではの課題を会話の中でスタッフが見出し、その解決策をご提案。これぞパーソナルテーラーの強みです。
「動いても快適なゆとりがあるのに、見た目にダボっとした感じはありません。オーダーならではの魅力だなと感心しましたね…さぁ、当店オリジナルのカクテル『トレンチ75』ができましたよ。どうぞご賞味あれ」

Ryutei Kochiraku柳亭小痴楽/落語家

1988年、五代目柳亭痴楽の次男として誕生。16歳のとき父に入門を申し入れるも、直後に痴楽が病床に臥したため、二代目桂平治(のちの十一代目桂文治)の預かり弟子に。その後改めて父の門下となり、2009年に三代目柳亭小痴楽を襲名。2019年、31歳で真打に昇進。

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引かれたのは、着込むほど育つリネンスーツ
Ryutei Kochiraku柳亭小痴楽/落語家

1988年、五代目柳亭痴楽の次男として誕生。16歳のとき父に入門を申し入れるも、直後に痴楽が病床に臥したため、二代目桂平治(のちの十一代目桂文治)の預かり弟子に。その後改めて父の門下となり、2009年に三代目柳亭小痴楽を襲名。2019年、31歳で真打に昇進。

「 いや〜迷っちゃうなぁ。どうしたものか…」たくさんの生地バンチを前にして、かなりお悩みの小痴楽さん。職業柄、スーツをほぼ着ないことが原因?と思いきや、「確かにビジネスマンの方ほどは着ませんが、パーティーなどには大抵スーツを着て出かけていますよ。

ただ、今まで着てきたのはいわゆる“よそ行き”のためのスーツ。今回は少し趣向を変えて、もう少し肩肘張らず、普段使いできるものが欲しいなぁと思っていたところなんですが…どんなスーツをオーダーしようかなぁ」
 そこで接客担当のスタッフが合いの手。「でしたら、リネンスーツなんていかがでしょう? 英国のスペンスブライソンという、いい麻がありますよ」
「 お、麻ですか? それはいいですねぇ。リネンのスーツというのは着たことがありませんが、麻の着物は今まで何着も誂えましたから」

今回、撮影場所として特別にご協力をいただいたのは、小痴楽さんのホームである明治30年創業の寄席・新宿末廣亭。“スーツで高座に上がっていただけませんか?”と無茶振りをしたところ、快く引き受けてもらえました。

何を隠そう小痴楽さん、着物へのこだわりは落語家のなかでも人一倍。父・五代目柳亭痴楽さん、最初の師・十一代目桂文治さんが相当な着物好きであったこともあり、師匠方の姿から粋な着こなしを学んだと言います。「懇意にしている呉服屋さんで誂えるんですが、夏はもっぱら麻ばかり。それもきっちりした絽より、かしこまりすぎない紗の着物を好んで着ています。ちなみに襦袢も麻ですね。なので、リネンスーツ、ピン!ときました」
「 お色はどうしましょう?」
「このネイビーが気に入りました。着物も普段、落ち着いた色みが好きなんです。色みは渋く、素材は軽やかに、っていう塩梅がなんとも小気味いいんですよね」
 悩みに悩んだオーダーもめでたく決着。あとは結果を待つばかりとご満悦で帰路に就いた小痴楽さん。そしていよいよ、仕立て上がったスーツとご対面の日。着替えを終えて新宿末廣亭の楽屋から登場した小痴楽さんのリネンスーツ姿は、たいそう板についていました。「これは今まで着ていたスーツと全然違いますね! ネイビースーツも、素材が麻になるだけでここまで表情が変わるとは。今日着たポロシャツとかTシャツみたいに、カジュアルな服を合わせるのにもぴったりですね」

お手製の台本に落語家の必需品である扇子と手拭い。

そう話しつつ、このスーツをしばらく着込んだあとのことにも思いをはせる小痴楽さん。「麻の魅力っていうのは、新品のときよりも着込んだあとにこそ味わえます。最初はパリッとしているけれど、だんだんと柔らかくなって、生地が体の形になじんでいくんですよね。それに、風合いの変化も醍醐味。味わいのあるシワが刻まれていったり、こすれて光沢が出てきたり。濃い色の麻は色も抜けてきて、それがまた小粋なんです…と、着物の経験でお話していますが、このスーツもきっと同じですよね? せっかく普段使いできるスーツを仕立てていただいたんだから、遠慮なくガシガシ着込んでみようと思います」

 その仕上がりに満足する一方、“スーツを誂える”という体験自体の楽しさも再認識したそう。「襟のステッチを少し内側に入れるだけでカジュアルになるんだ…とか、和服とは違う奥の深さを感じました。ボタンや裏地など細部も自由に選べて、うれしくもあり悩ましくもあり…スタッフさんのサポートにも助けられ、いやはや、素晴らしい体験でした」

ジャケットには、縦書きで「柳亭 小痴楽」の刺しゅうを入れました。なんとも渋い !

その仕上がりに満足する一方、“スーツを誂える”という体験自体の楽しさも再認識したそう。「襟のステッチを少し内側に入れるだけでカジュアルになるんだ…とか、和服とは違う奥の深さを感じました。ボタンや裏地など細部も自由に選べて、うれしくもあり悩ましくもあり…スタッフさんのサポートにも助けられ、いやはや、素晴らしい体験でした」

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