「麻布テーラーの人々」と題し、麻布テーラーと深く関係のある一線で活躍をされている方々にお話をうかがう本連載。今回は、ラグビーワールドカップ2019日本大会、2023フランス大会、両大会の日本代表選手として出色の活躍を見せた、流大選手と中村亮土選手、お二人のご登場です。日本代表を引退した現在も、引き続きリーグワン屈指のトッププレイヤーとして活躍中のお二人ですが、実は、これまでの選手生活を振り返ってみると、意外にもスーツとの関係が深い時期があったそうです。
企業スポーツの歴史があるラグビーには長年、社業に携わりながら選手としてプレーし、引退後は所属企業に残る、いわゆる「社員選手」が一般的だったそう。 日本代表選手として、華々しくご活躍をされたお二人も、大学卒業後、すぐにプロのラグビー選手として活動をスタートされていたわけではなく、実は、サラリーマンとラグビー選手、兼業選手時代があったそうですね。
中村さん:そうなんです。実は、今でこそ、日本人のなかにもプロ契約を結んでいる選手も所属していますが、我々が入社した当時、日本人は大半が社員選手でした。
ですから、その道ひと筋のプロ契約選手とは異なり、パソコンも操作しますし、企業人としてのコミュニケーションも必要になります。ストレスに感じる時もありましたが、社業のストレスはラグビーで発散して、ラグビーのストレスは社業に打ち込むことで消えていくといったように、不思議と自分の中ではバランスが取れていたように思います。
流さん:日中は、それこそ企業の一般社員と同じで、普通にスーツを着て外回りをする営業職に従事し、仕事が終わると、スーツから練習用のジャージーに着替えてラグビーに打ち込むといった日々。トップリーグのシーズン中は、選手としての活動を中心としていますが、シーズンが終わると社業と練習を1日の中で行います。午前練習の際は午後社業、午後練習の際は午前社業という具合でしたね。
なるほど。「社員と選手」の二足の草鞋を履いていたわけですね。そうすると普段からスーツを着用される機会は多かったということですね。それこそ、自前で揃えたスーツを着て営業に行かれていたということでしょうか?
流さん:サラリーマン時代はもちろんですが、プロ選手となった今も、試合の合間の移動などの際にはチームスーツがありますので、必ずチーム全員、スーツを着用しています。
中村さん:ネイビーやグレーなど、いわゆるビジネススーツを着用して、取引先への訪問や打ち合わせなどをしていましたね。ですから、その頃のスーツが今でも4、5着は自宅のクローゼットに残っています。
分厚い胸板に丸太のような太腿は、日々の鍛錬の賜物。日々の過酷なトレーニングで鍛え上げられたお二人の屈強な身体に合うスーツを既製品で見つけようとするとなかなか難しかったのではないでしょうか?
流さん:おっしゃるとおり(笑)。突出して筋肉がついているパーツに合わせてスーツを選ぶと、他の部分はブカブカになってしまいます。かといって全体のシルエットを合わせようとすると、筋肉がついた部分だけがパツパツになってしまいます。ですから、サラリーマン時代からスーツはオーダーをしていました。
中村さん:何しろ胸板、首周り、太腿、ありとあらゆるサイズが規格外の身体ですから(笑)。当然、スーツもオーダーでなければ満足いくような着心地を味わうことはできませんでした。
やはりそうでしたか(笑)。世界レベルの屈強なラガーマンと並んでも見劣りしない体躯を誇るお二人ですが、実は、お洒落にも気を遣われていらっしゃるそう。そんなお二人には、今回、ぞれぞれの目的に合わせたスーツをオーダーしていただきました。
流さん:私は友人や仲間の結婚式、そして、これからのホリデーシーズンに向けて、パーティなどの際にも着用できるフォーマルなスーツをオーダーしました。年齢的なこともありますし、やはりきちんとした場にふさわしい、しっかりとしたスーツを一着揃えておきたいと常々思っていましたから。
程よい光沢のある生地が艶っぽさもあり、ピークトラペルも華やかで、非常にお似合いです。正統派ゆえに、仕立てのよさや生地の個性が際立ちます。出来栄えはいかがでしたでしょうか?
流さん:はい、非常に満足しています。身体に自然と沿ったシルエットが、ラグビー選手特有の身体の特徴や存在感もきちんと表現してくれていますし、かといって窮屈さを感じさせない、絶妙なフィット感が気に入っています。つい先日も、友人の結婚式に着用をしましたが、周囲からの反応も上々でした(笑)。
さらに、この生地がまた非常に快適なんです。それこそ真夏を除いて、3シーズン着用できるような生地を選んでいただいたお陰で、春先のイベントやパーティ、トークショー、TVの解説で呼ばれた際など、それこそ着用時季を選ばずに幅広いシーンで活躍してくれそうです。
そして、中村選手は日焼けした褐色の肌に映えるグリーン系の生地でオーダーされました。頭身も高く、胸板にも厚みがあるので、個性的な生地にも負けない存在感が際立って、非常に凛々しく見えますね。
中村さん:ありがとうございます。ネイビーやグレー系のスーツはサラリーマン時代にもたくさん着てきましたし、ひと通り揃ってしまいましたので。折角の機会でしたから、思い切って普段選ばないような個性的な生地にチャレンジしてみました。生地のサンプルを見せてもらった瞬間、この色味に目が止まりまして。「これだ!」ってピンときたんです。
なるほど。こちらのスーツはどんなシーンでの着用をイメージされたのでしょうか?
中村さん:はい。実は私、2020年にサラリーマンを辞めて、プロとしての道を歩み始めましたのですが、直後にコロナ禍になってしまい、リーグ戦は中止。練習すらできない日々が続いてしまったことで、何となく、社会から取り残されてしまったような気がした時期がありました。
「ラグビー以外に何か軸がほしい」と、一念発起。起業を決意し、ラグビー選手としての経験と飲料メーカーで蓄積した知識が生かせると思い、プロテインを販売する会社を仲間と設立しました。それ以降、経営者として人前で話をするような機会も多くなりましたので、セルフプロデュースをする意味でも、少しでも自分を印象に残せるような個性的なスーツが欲しいと思い、オーダーさせていただきました。
ラグビーでジャージを着るとスイッチが切り替わって、気合いが入るのと同じように、スーツを着ると、また違うスイッチが入って、背筋がピンと伸びます。
今は選手と経営者の二刀流というわけですね。普段、ファッション誌などをチェックすることもあるそうで、お洒落には気を遣っていらっしゃるそうですね。
中村さん:はい。洋服は大好きなので、着こなしにも気を使っています。普段は、色柄物は少なくて、極力、綺麗でシンプルなスタイルを心掛けています。体が大きいので、ガチャガチャと派手に着飾るよりも、要素を削ぎ落としたシャープなアイテムを選んだ方がまとまって見えるのではないかと思っています。
それと、最大の敵はサイズですね(笑)。トップスは、ボリュームのある僕にも似合う服が結構あるのですが、ボトムスが既製品では合いません。太腿に合わせるとウエストがガバガバになってしまいます。それで合わせても見た目も良くありませんから。ですので、所有しているパンツはすべてオーダーメイドです。
やはり、そうなりますよね(笑)。今回、スーツを仕立てるにあたって特にこだわったポイントなどはありますか?
中村さん:今回のこだわりはやはり生地ですかね。さらに言えば、フロントや袖口のボタンですね。光沢感があって、煌びやかに見えて高級感はあるけれど、悪目立ちしないような、貝ボタンを選びました。
確かに、ほのかな光沢が上品な雰囲気ですね。そういえば、お二人ともパンツはベルトレスのサイドアジャスター仕様にされていますね。履き心地はいかがでしょうか?
中村さん:めちゃくちゃ楽です(笑)。ベルトをしている感じもあって、脇のアジャスターで調整もできるのがとても快適ですね。
流さん:確かに、すごく楽ですし、腰回りがすっきりシャープに見えてとても気に入っています。これもオーダースーツならではの楽しみでしょうね。
中村さん:しかも、いざベルトをつけようとすると、靴やシャツとのコーディネートを気にしなくてはならなくて、意外と面倒な時がありますが、ベルトレスにしたことで、そういった煩わしさから解放されましたね(笑)。
なるほど。中村さんのスーツはオフの日などでも、幅広いシーンで楽しんでいただけると思います。
中村さん:そうですね。実は、今日の午前中も一緒にラウンドをしてきましたが、二人ともゴルフが大好きで、時間を見つけては共にラウンドする仲なんです。ゴルフ場によってはクラブハウスでジャケット着用が必要な場合もありますから、このジャケットを手持ちのパンツにコーディネートするのもありかもしれません。秋冬ゴルフはお洒落をする楽しみもありますからね。
そうでしたか。紳士のスポーツ、ゴルフがお二人の共通の趣味だったのですね。 そうして練習以外の場所でもお互いの絆を深めていらっしゃるわけですね。選手同士の絆って素敵ですよね。そういえば今日はもう一つ、お二人にとって、またラグビー日本代表選手の皆さんにとっても「絆」を象徴するような貴重な品をお持ちいただいたそうですね。
中村さん:はい。2023フランス大会の際に、選手とスタッフ全員に配られた思い出のブレスレッドになります。日本刀を作る際に使われている玉鋼製で、大会中はこれを選手始め関係スタッフ全員、試合会場まで身につけて行ったお守りのようなものです。
流さん:私も今は自宅の大切な場所に保管してあります。毎回、試合会場まで付けていき、ロッカールームでジャージに着替えるまで外しませんでした。
そんな大切なお守りをご披露いただきありがとうございます。今後、プロ選手としてピッチで躍動する姿はもちろん、スーツを着用してご活躍される姿を多方面で目にすることにもなりそうで、今から楽しみです。
中村さん:あくまでラグビーが軸にはなりますが、経営者としての小さな成功体験の積み重ねが、プレーの自信にもつながっているところはあるのかもしれません。選手と経営者の二刀流で、自分らしく楽しんでいけたらと思っています。
流さん:私も、一番大切なのはラグビー。まずラグビーに集中できる環境を整えたうえで、後進や子供たちへの指導を通じて、日本ラグビー界に貢献していきたいと思っています。セカンドキャリアでコーチとして成功したいという思いがありますね。
英国のジェントルマン・スポーツとしての伝統が継承されたラグビーには、ルールやマナーを重んじる精神が息づいています。これは、英国を発祥とするスーツスタイルにも通ずる理念。お二人それぞれラグビーと個々の活動という異なる性格のコミュニティをもっているからこそ、今後もさまざまな化学反応が期待できそう。麻布テーラーのオーダースーツを身に纏った凛々しい“九州男児”たちの活動から、今後も益々、目が離せません。
- 中村 亮土 さん
- 1991年生まれ。鹿児島県出身。高校時代からラグビーを始め、進学した帝京大学では4年生の時に主将として同校を大学選手権5連覇に導く。日本代表として39試合に出場し、RWCには2大会出場。プロテイン事業やラグビーアカデミーを運営する会社の経営者としての一面も持つ。
- 流 大 さん
- 1992年生まれ。福岡県出身。9歳からラグビーを始め、進学した帝京大学では1年生の時からトップチームでプレーし、4年生時には主将として同校を大学選手権6連覇に導く。日本代表として36試合に出場し、RWCには2大会出場。2023年のRWCフランス大会では副将も務める。