「麻布テーラーの人々」と題し、麻布テーラーと深く関係のある一線で活躍をされている方々にお話をうかがう本連載。今回は、『名探偵コナン』や『それいけ!アンパンマン』などのアニメ作品の制作を手掛けるトムス・エンタテインメントのプロデューサー、岡本浩樹さん。ご自身の装いに関する美学、そして、この1月から放送が始まるオリジナルTVアニメ『HIGH CARD』と、麻布テーラーとの関係や見どころなどについてもうかがいました。
アニメやゲームなど、クリエイティブな職種のプロデューサーというと、どのような装いをイメージするだろうか? 個性的でカジュアルなスタイルが多いイメージですが、実は、岡本さんの好むスタイルは、意外にもスーツやジャケット中心のトラッドなスタイルだったのです。
自由でリラックスした装いが多いとうかがっていたアニメ業界において、岡本さんは普段からジャケットにネクタイを締めたトラッドなスタイルをされているそうですね。
岡本さん:「確かに、多いかもしれません。ネクタイこそ締めていたわけではありませんが、学生時代からスーツやジャケットスタイルには興味を持っていました。実は、就職もアニメ業界を中心には考えていたのですが、一方で、ファッション業界にも興味を持っていました。最終的には、アニメの道に進むことになったのですが、その当時の希望が叶っていなければ、アパレルの道に進んでいたかも知れません(笑)。」
なるほど。ファッションに興味を持ったのには、何かきっかけがあったのでしょうか?
岡本さん:「はい。実は、学生時代にある海外ドラマに出会ったのがきっかけだったんです。2009年から2015年にわたって放送された『グリー』というTVシリーズで、グリークラブ(合唱部)に入部した高校生たちの成長を描いたミュージカルコメディドラマ。その中に登場する、ブレイン・アンダーソンというキャラクターのスタイルの格好良さに魅せられたのが、ファッションに目覚めたきっかけでした。」
ちなみに、それはどんなスタイルだったのでしょうか?
岡本さん:「少し派手さはありましたがトラッドがベースで、米国のブルックス ブラザースや英国のフレッドペリーなど洋服を、格好良く着こなしていたんです。ブレザーやニット、大柄のパンツを着こなすスタイルなどが、とても新鮮で格好よくて。学生だった当時はよく彼のスタイルを真似したりしたものです(笑)。」
アメトラやブリトラと言われる、いわゆるトラッドなスタイルがお好きなんですね。そういえば、先日、麻布テーラーでオーダーされたというこちらのジャケットもトラッド好きには定番のブラックウォッチ柄ですね。
岡本さん:「はい。実は、今回の作品で麻布テーラーさんとお仕事をさせていただくことになり、トラッドマインド溢れるその世界観にすっかり魅せられてしまったんです。私の思い描くテイストをしっかり理解していただき、理想の雰囲気を見事にスーツに落とし込んで表現していただきました。これこそまさに、オーダーでこそ味わえる満足感だと思います。今日はジャケットだけを着てきましたが、実は、上下で単品使いもできるようにと、店舗スタッフの方にもアドバイスをいただいて、セットアップでオーダーしたものなんです。先日、ニューヨークで開催された米国最大規模の日本のアニメ文化の祭典“Anime NYC”で、今回のTVアニメ『HIGH CARD』のワールドプレミアで登壇させていただいた際にはセットアップで着用しました。」
そうだったのですね。オーダーするにあたり、こだわった部分はありますか?
岡本さん:「ブラックウォッチ柄の生地はお店で見せてもらった瞬間に、もう『これだ!』と即決でしたね(笑)。生地で遊んでしまったぶん、パターンやシルエットは気を衒わずベーシックに。これならトレンドに左右されることもなく、長く愛用していけると思います。ただ、ボタンについてはシルバーではなく、金ボタンにこだわりました。あとは、男性らしいシルエットに見せたかったので、3つボタン段返りの仕様にしてもらいました。とにかく身体にぴったりとフィットしてくれて、着心地は抜群。スタイルも良く見えるので、とても満足しています。」
メタルボタンに、フックベントなどディテールもアイビー通な仕上がりですね。オックスフォード生地のボタンダウンシャツに、ソリッドなネイビーのウールタイがとても良い雰囲気で、お似合いですね。
岡本さん:「ありがとうございます。ジャケットが特徴的なぶん、コーディネートは極力シンプルに。色数をたくさん使わずに、無地系で着こなすことが多いです。ビジネスシーンに馴染むような、落ち着きのある装いは意識するようにしています。」
そういえば、革靴もお好きだそうで、こだわっていらっしゃるそうですね。
岡本さん:「ええ、今日履いているのは、トリッカーズという英国ブランドのものです。革靴も大好きで、実は、先日のニューヨーク出張の際にも、やはりアメリカといえば、オールデンですからね。コードバンのタッセルローファーを現地のショップで購入しちゃいました)笑)。」
こだわりといえば、この1月から放送されるTVアニメ『HIGH CARD』ですが、スーツを身に纏ったキャラクターが非常に印象的ですが、この辺のイメージなどはどのように膨らませていったのでしょうか?
岡本さん:「実は、2014年に公開されたスパイアクション映画『キングスマン』という作品がありまして、あの映画のスーツを着た男たちが繰り広げるアクションシーンがとても格好よかったんです。そこから何となく“スーツとアクション”を掛け合わせたようなアニメ作品を作ってみたいと思うようになっていったんです。アニメですから、登場人物たちも単純にスーツを着ているだけよりも、何か特殊能力を持っているような設定にして、その発動のキーアイテムにトランプを選びました。カッコいい雰囲気がビジュアル的に相性良いなというシンプルな理由からだったのですが、“スーツ”とトランプの“スート”(スペードなどのマーク)の英語の綴りが“SUIT”とたまたま同じでピッタリだなと。そのような感じでイメージを膨らませていきました。作品全体の雰囲気も、英国の街並みや風景をモチーフにしながら作り上げている部分もありますので、スーツの本場、英国のテーラーにオーダーしに行くようなシーンも何話目かに登場してきますから、その辺りも楽しみにしていただきたいと思います(笑)」
なるほど、聞けば聞くほど、楽しみになりますね。
岡本さん:「キャラクターの衣装を描くにあたって、スーツのディテールやコーディネートのルールなど、アニメ作品とはいえ、極力リアルな雰囲気に近づけたくて、社内のメンバーと紳士服の本を買って勉強をしたり。やはり、ドレススタイルにはルールがありますからね。アニメとはいっても、海外ドラマや洋画を見ているような感覚で、大人にも楽しんでいただける作品に仕上がっていると思います。」
なるほど。ご自身の装いへのこだわりが、今回の作品にも活かされているわけですね。
岡本さん:「そうなんです。また、今回の麻布テーラーさんとお取り組みさせていただいたのは、作品の放送決定を記念したプロモーションの一環として作品中のメンバー5人が着用しているスーツをイメージして、声優陣が実際に麻布テーラーさんでスーツをオーダーさせていただいたんです。みんな出来上がりのスーツをすごく楽しみにしていました!フィン役の佐藤元さんとクリス役の増田俊樹さんが、麻布テーラーさんで採寸している様子をこちらで特別公開していますのでぜひご覧ください。」(https://www.highcard.jp/news/information/253/)
そういえば、今回、作品のキャラクターを、麻布テーラーのイメージビジュアルでお馴染みのイラストレーター、綿谷 寛さんにそれぞれ描いていただいたとお聞きしましたが、そのイラストがこちらですね。
岡本さん:「はい、とことんスーツのビジュアルにこだわりたくて、綿谷さんのアトリエまで直にご挨拶にうかがって、お願いをさせていただきました。まさか、お引き受けいただけるとは思ってもいませんでしたので、ご快諾いただいた時はとても嬉しかったですね。やはり、スーツのディテールやキャラクターの表情など、細かい部分までしっかり描きこまれていて、写実的で、とても素敵な作品に仕上げていただきました。キャラクターの声優陣もこのイラストを見るなり口を揃えて、『こんな伝説的な凄いイラストレーターさんに、ジャンルも全然違うのにアニメキャラの絵を描いていただくなんて、そこまでヤリますか?』って、驚かれましたね(笑)。でもその後で、『でも、こうして改めて見るとスーツスタイルってやっぱり格好良いですね』って、みんなも納得してくれたんです。そのぐらい、素敵な作品をいただいたと思います。」
岡本さん:「今後も色々と仕掛けやプロモーションをしていくなかで、人前に立つ機会も増えてくるかもしれません。そんな時にこそこの麻布テーラーのパーソナルオーダースーツは、気持ちを前向きに、自分に自信を与えてくれる大きな武器になってくれると思います。『必要なのはマナーと気品、そして命を張れる覚悟。それだけです』という、このアニメのキャラクターのポリシーとも言えるフレーズがあるのですが、まさにスーツこそ、着用する人にマナーと気品が求められるものだと思います。私もそんな紳士なれるよう、これからも麻布テーラーを、そしてスーツスタイルを楽しんでいきたいと思います。
岡本 浩樹 さんトムス・エンタテインメント プロデューサー
1992年、大阪生まれ。大学卒業後、2015年にトムス・エンタテインメントに入社。2016年より、同社にて『名探偵コナン』シリーズや『信長の忍び』『明治東亰恋伽』『インセクトランド』などの宣伝やプロデュース業務に従事する。2023年1月9日より放送開始のTVアニメ『HIGH CARD』ではプロデューサーを務める。