スペシャル インタビュー ビジネススタイルの羅針盤

昨年、国内最大の日本語特化人工知能（AI）エンジンの開発に成功した株式会社イライザ。AI技術研究の第一人者、松尾 豊教授が率いる東京大学の研究室、通称・「松尾研」の出身者たちによって設立されたAIスタートアップは世界中の大企業から熱い注目を集めている。

そんなイライザの代表取締役を務める人物が曽根岡侑也さんである。東京大学大学院工学系研究科で学んだ曽根岡さんは松尾教授の愛弟子というべき存在。師はスーツを愛する洒落者としても知られ、昨年、弊誌でも麻布テーラーのタキシード姿を披露していただいた。となると、ビジネススタイルもやはり松尾流なのだろうか？

「それが先生に服装のことで直接指導やアドバイスをいただいた記憶はないんです。仕事でいろいろな方とお会いしながら、客観的に自分を見つめて分析していくうちに、だんだん自分が着るべき服がわかってきたんです。先生は教え子に何かを教える際、こうしたメタ認知を使って自分で解決するよう指導することが多いんです」

メタ認知とは自分が認知していることを客観的に把握し、制御する能力のこと。メタ認知を鍛えれば、目標達成力や問題解決能力を高めることができるといわれ、近年、ビジネススキルとして注目を集めている。

曽根岡さんが導き出したベストなスタイルは「ジャケパン」だ。

「スーツを着ることもありますが、普段はもっぱらジャケパンです。というのも、イライザの業務の特性上、クライアント企業の方は、私を『ビジネスマン』ではなく、『AIの専門家』と認識しているケースが少なくありません。そのため、かっちりし過ぎないジャケットのほうが何かと都合がいいんです。きちんとしたいときはシャツとネクタイ、リラックスしたいときはニットやカットソーで着こなしています」

スタイリングのキーワードは「年齢以上」。

「まだ31歳なので、お会いする方の多くが私より年上です。信頼感を持っていただけるよう、できるだけ上質な素材を選んだり、ネイビーやグレーを基調にしたり、年齢以上に落ち着いた雰囲気になるよう意識しています」

お気に入りのショップは松尾教授ともゆかりのある麻布テーラーだ。

「AIによるデータに基づいた提案ではなく、私という一人の人間に似合う服を一緒に考えてくれることに驚きました。こうしたサービスで得られる納得感、満足感はファーストクラス級だと思います」

今回仕立てたのはネイビージャケットとグレースラックス。一見普通のウール生地に見えるが、じつは上下ともにウールベースのジャージー素材である。優れた伸縮性といい、ソフトな肌触りといい、着心地はたしかにジャージー素材だが、風合いは上質なウール生地そのもの。

「移動が多く、色々な職種の方とお会いするので、きちんとして見えるのに動きやすい素材は助かります」

社会から自分が求められる役割を理解し、自分らしい、着るべき服を着る。AIの新地平を切り拓く男のビジネススタイルは、誠実さとしなやかさを兼ねそなえていた。