「麻布テーラーの人々」と題し、麻布テーラーと深く関係のある一線で活躍をされている方々にお話をうかがう本連載。今回は、旭化成(株)代表取締役社長である工藤幸四郎さん。旭化成といえば、世界で唯一、コットンから生まれる再生セルロース繊維「キュプラ」の製造を手掛ける企業であり、商標名「ベンベルグ」を用いた裏地は、今や世界中の一流アパレルでも使用されています。グループ全体で約5万人の従業員を抱える一流企業のトップに、仕事感やスーツへのこだわりを教えていただきました。
麻布テーラーのオーダースーツでも使用率が非常に高い高級裏地と言えば旭化成のキュプラ、「ベンベルク」。上品な光沢感があり、透湿性に優れ、滑りが良く、シーズン問わず快適さを感じられることから、スーツやジャケット類には欠かせない裏地となっていて、そのシェアは、今や世界規模だとうかがっています。
工藤さん:ありがとうございます。1928年に弊社が、ドイツからベンベルグの紡糸方法の技術を導入し、1931年に宮崎県延岡市にベンベルグの工場を設立したのが始まりです。以来、自然環境を大切にしながら品質の向上と用途の拡大に努めてきました。90年以上にわたり、その品質が世界で認められ続けてきた極めて珍しい繊維です。
なるほど。裏地は、決して表に出る素材ではありませんが、着心地にすごく影響を与えるものでもあります。
工藤さん:そうですね。基本的には、一年を通して、スーツやジャケット、パンツなど、あらゆるアイテムに使うことができます。特に、ベンベルグは滑りや肌触りの良さから、スーツ等の裏地としても多用されています。また、ベンベルグはポリエステルと比べて、吸湿性・放湿性に優れ、ムレにくい素材ですから、シーズン問わずに、快適な着用感を実感していただけると思います。特に、夏用のスーツやジャケットなどは、快適さが格段に違ってくるはずです。
確かに、スーツは体に沿うようなシルエットが基本になりますから、必然的に密着する面積が広くなります。そのため着心地を左右する裏地の素材はかなり重要です。
工藤さん:裏地に滑らかな肌触りが特徴のベンベルグをお使いいただくことで、スムーズな着脱が可能になりますし、光沢にも優れていますので、ビジネスシーンにおいて上品さを演出できるところも大きな魅力になるのかもしれません
確かに、ネイビーやグレー系はもちろん、爽やかなブルーやパープル、ブラウンなど、発色も美しくて、色使いも繊細で多彩です。今回、オーダーされたスーツの裏地もベンベルクですが、着用感はいかがでしょうか?
工藤さん:実は、これまで手持ちのスーツは無地ばかりで、柄物に挑戦するのは今回が初めてでした。これまでは無地のスーツに、色柄モノのネクタイを合わせてVゾーンに変化を付けるような着こなしが中心でしたから、とても新鮮に感じています。
自分では普段選ばないような色柄物の生地をお薦めいただけるのもオーダーならではの愉しみかもしれませんね。プロフェッショナルなスタッフの方が、私の好みや着用シーンなど、詳細にヒアリングしてお薦めいただきましたから、初めての柄物でも安心して選ぶことができました。
実は今日、着用いただいているシャツも、世界で唯一キュプラを生産する旭化成グループと麻布テーラーの取り組みにより、キュプラの特徴を残しながら、コットンとブレンドすることで独自に仕上げたオリジナル生地によるオーダー品だとうかがいました。
工藤さん:そうでした。上品な光沢感と滑らかでシルクのような着用感がとても気持ちの良いシャツに仕上がっています。スーツ同様、実は、ドレスシャツのサイズ選びも難しくて、ネックで合わせると袖が長すぎることもあるし、その逆もまた然り。ジャストフィットの既製品を手に入れるまでには、補正も必要になりますし、意外と手間がかかるものです。
確かに、そうかもしれません。この「コットンキュプラ」という素材は、ムレを防ぐ高放湿性だけでなく、肌表面の熱を水分によって外へと逃がす機能もあり、蒸し暑い日本の夏を快適にお過ごしいただけます。また、高い制電性から、冬の不快な静電気を抑えることも可能。ドレス感を強調するための仕上げにもこだわった、まさにオールシーズンを快適に装っていただける麻布テーラーでしかお求めいただけないシャツ生地です。
工藤さん:確かに、肌に直接触れる面積が多 いシャツは、通気性が良くサラリとした肌触り を保ってくれることが重要ですよね。このシャ ツも、サラサラとした肌触りがとても気持ち良 くて快適です。
やはりスーツやシャツもそうですが、本当に身 体にフィットした着心地や個性を求めるならば、 オーダーメイドが安心ですし、何より効率的か もしれませんね。自分の体型に合わせた既製スー ツを求めて、あちこちとショップを探し回るよ りも、一度、採寸してオーダーさえしておけば、 決まったショップに脚を運ぶだけで、後は、着 用目的やシーズンに合わせて生地を選ぶだけで すみますからね。
確かに、効率的かもしれません。そう言えば、普段、何かとお忙しく時間的な余裕がない立場にいらっしゃる経営者の皆様ほど、スーツやシャツもオーダーメイドをご利用されるケースは増えているように思います。
工藤さん:値段が高ければいいという話ではもちろんありませんが、「いいモノ」はそれこそ値段なりに価値と意味があると言えるでしょう。麻布テーラーさんのオーダースーツには、価格に見合った価値、着る人の格をも上げてしまうような力があるように思います。
ありがとうございます。麻布テーラーでは、お客様の立場やファッション感、さらには時代性を踏まえ、ワンランク上のステージへと押し上げられるようなご提案を常に意識しています。スーツには、ビジネスマンにとって仕事に向かう姿勢を正すような、そんな力が宿っています。やはり、通年を通してスーツを着用されることが多いのでしょうか。
工藤さん:最近は立場上、表舞台に立つ機会も多くなりましたから、どうしてもスーツスタイルが中心になります。このスーツであれば、それこそ業界団体の会合はもちろん、取締役会や社内表彰式など、格式が求められるようなオフィシャルなシーンで着用しても見劣りすることはまずありません。あらゆるシーンで着用できる品格が備わっていると思います。
それでも、特に夏場のノータイスタイルが許されるような時期で、終日来客もなくオフィスで過ごせるような日であれば、あえてジャケットスタイルを愉しんだりもしています。それこそ、デニム生地のジャケットにローファーを合わせるような、今の時代にフィットした軽やかでリラックスしたスタイルから生まれる新しいアイデアもありますからね。
なるほど。経営トップ自らが、装い方一つをとってみても、刻一刻と変わるビジネスの世界で、変化に、柔軟にスピーディに対応し、常にチャレンジを続けているわけですね。次回はどんな生地のジャケットをオーダーされていらっしゃるのか。ジャケットスタイルでお会いできる日が、今からとても楽しみです。
工藤 幸四郎 さん旭化成株式会社 代表取締役社長
1959 年 宮崎県延岡市生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、旭化成工業(株)(現 旭化成(株))入社
2022 年 4 月に旭化成(株)代表取締役社長 兼 社長執行役員に就任