スタイリストの武内雅英さん インタビュー | オーダースーツ・オーダーシャツの麻布テーラー | azabu tailor
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武内 雅英さん(スタイリスト)25th INTERVIEW No.5

おかげさまで麻布テーラーは 25 周年を迎えました。それを記念した本連載では、今まで私どもと深くかかわってくださった方々にご登場いただき、麻布テーラーに対する思いや私的なスーツ観などを伺っています。
今回登場するのは、人気スタイリストの武内雅英さん。様々なメンズファッション誌の企画でたびたび私どものアイテムを取り上げていただき、先日刊行した麻布テーラーのブランドブックでもスタイリングを担当してくださいました。雑誌編集者はもとより服飾業界関係者からも厚く信頼される彼は、麻布テーラーについてどのように感じていたのか、じっくり伺いました。

25th interview vol.5

麻布テーラー 25周年を記念して刊行したブランドブック『a WONDERFUL LIFE 素晴らしき、人生を』の制作では大変お世話になりました。

こちらこそです。大変光栄なお仕事をさせていただきました。

掲載アイテムはある程度私どもで選んだものですが、モデルさんを使ったスタイリングページのコーディネートなどは全て武内さんにお任せしました。
麻布テーラーの世界観を見事に表現してくださってさすがだなと感心しました。

じつはモデルが着用したコーディネートアイテムは、麻布テーラーのアイテムではないものも含まれているんです。トータルでアイテムを展開なさっているのに、よく許してくれましたよね(笑)。

お客様のその日、その時、その場所に相応しい装いを考えた時に、麻布テーラーのアイテムを主役としながら、様々な着こなしができることを表現したかったんです。
皆様、当然さまざまなブランドの服をお持ちでしょうし、それと私どものところで仕立てたスーツやジャケットを合わせることもあるでしょうから。

それでもせっかくのブランドブックですから、出てくるアイテムは全部自社のアイテムで縛ってもおかしくないのに……。さすが“ファッションテーラー”を標榜するだけあるなと思いました。
正統的なクラシックを軸としながら、その時々のファッショントレンドに寄り添ったリアリティーあるテーラードスタイルを提案してきたからこその自信とも言える。

ありがとうございます。ところで武内さんと麻布テーラーとは長いおつきあいですが、きっかけはなんだったんでしょう。
やはりファッション誌のタイアップページのお仕事でしょうか。

いえ、メンズクラブや Begin、MENʼ S EX といった雑誌の編集ページに使用する服をお借りするようになったのが始まりだと思います。ボクがまだ駆け出しの頃ですから、20 年近く前になりますでしょうか。商品リースのためによくうかがっていました。当時はイタリアンクラシコ全盛期でしたが、麻布テーラーはあまりそこを追いかけず、オーダーサンプルとして並んでいるスーツもベーシックでオーセンティックなものが多かった。だから特集企画などで英国調のクラシックなスーツ、あるいはトラッドなブレザーやツイードジャケットなどを使用したいとき、とても重宝したんです。クレリックシャツやタブカラーシャツ、ブレイシーズといったクラシックな小物の品揃えが充実しているのもスタイリストとしてありがたかった。

麻布テーラーのスーツについて、仕立て面ではどのような印象をお持ちでしたか?

前々から感じていたんですが、麻布テーラーのスーツって、モデルさんに着せたときに首が抜けづらいんですよね。もちろんお借りするのはオーダー用のサンプルなのですが、誰に着せても首から肩にかけての吸い付きがいい。高級ブランドのスーツでも、既製品の場合は首が抜けてしまうことが多いものなのに。麻布テーラーは不思議とピタッと吸い付く。パターンワークの良さに加え、要所の縫製やアイロンワークなどに熟練職人さんの手仕事を多用しているからでしょうね。しかもその技術力は近年ますます上がっている感じがする。日本には腕のいいスーツファクトリーがいくつかありますが、それらと比べても麻布テーラーの自社工場は頭一つ抜けているんじゃないかと感じることも。これはマジな評価です(笑)。

スーツをたくさん見てきた武内さんからそのように評価していただき、光栄です。
うちの工場の職人たちも喜ぶと思います。では私たちのパーソナルオーダシステムについてはどのように感じていらっしゃいましたか?

オーダースーツが身近になったのは、やはり麻布テーラーの功績が大きいと感じています。
麻布テーラーがブランドをスタートさせた 25 年前といえば、テーラーでスーツを仕立てるのはよほどの服好きに限らていて、多くの人が既製のスーツで満足していた。そもそも自分の体型に完璧にフィットするスーツを着る感覚の人が少なかったように思うんです。袖丈や裾の調整をするくらいで、お直しもあまりする人はいなかった。そんな中で麻布テーラーはお客様の側に立った親身な接客やリーズナブルな価格設定を武器に、オーダースーツの魅力を地道に啓蒙していった。いわゆるパターンオーダーなどと比べ、デザインやディテールの選択肢が非常に多く、お客様の自由度がとても高いのも斬新でしたよね。もちろん生地のバリエーションもすごい。イギリス、イタリア、日本と、世界中の名門メーカーの傑作生地を取り揃え、別注なども積極的に行なっている。最近ではストレッチなど機能系生地も充実していますよね。自分だけの特別な一着を仕立てたいとき、麻布テーラーに頼る人が多いのは当然だと思います。

今後の麻布テーラーについて何か期待することはありますか。

超売れっ子の綿谷画伯(ファッションイラストレーターの綿谷寛氏のこと)に昔からイラストをお願いしていることが象徴するように、麻布テーラーは早くからプロモーションに力を注ぎ、自分たちの世界観や、スーツをきちんと着ることのカッコよさを多くの人に伝え続けてきましたよね。意外とスーツを専業とするブランドでそういうことを力を注いできたところは少ないと思うんです。とくに最近は、着心地の快適さや価格の安さ、あるいはオンオフ兼用できる利便性といった部分ばかりをアピールしている。それだとスーツ文化はますます低迷するし、どんどんカッコ悪いものになっていく気がする。スーツ離れが叫ばれていますが、それはスーツを仕事の制服のように感じている人がいるからだと思うんですよ。身体にぴったりフィットした上等なスーツは、その人のステイタスはもちろん、センスや文化的な成熟度、あるいは遊び心などを示すことができる重要なアイテム。それを纏うことで気分もぐっと高揚するし、いろんな素敵なシーンが待っていると思うんです。だから麻布テーラーには、雑誌やウェブなどいろんなメディアを通して、スーツこそが男を一番カッコよく見せるものだということを今後も力強く伝え続けてほしい。ボクでよければ、そのためのお手伝いはいつでもさせていただきますよ(笑)。

そう言っていただけるととても心強いです。こちらこそ今後とも麻布テーラーをよろしくお願いします。本日はどうもありがとうございました。

PROFILE

武内 雅英

1977 年生まれ。世界文化社発行「Begin」の編集者を経て、スタイリスト梶谷早織氏に師事。2005 年に独立し、クラシックからモード、ドレスからカジュアルまでカバーする幅広い守備範囲と、誰もが即真似できるリアリティーあるスタイリングを武器に、数多のファッション誌や WEB 媒体で活躍。