エスクァイアのファッションディレクターを務める西川昌宏さん インタビュー | オーダースーツ・オーダーシャツの麻布テーラー | azabu tailor
AZABU TAILOR

西川昌宏さん(Esquire The Big Black Book ファッション・エディター)25th INTERVIEW No.4

おかげさまで麻布テーラーは25周年を迎えました。それを記念した本連載では、今まで私どもと深くかかわってくださった方々にご登場いただき、麻布テーラーに対する思いや私的なスーツ観などを伺っています。
今回ご登場いただくのは、エスクァイアのファッションディクレクターを務める西川昌弘さん。敏腕編集者は長年麻布テーラーをどのように見てきたのか? そして今後なにを期待するのか? 本音で語っていただきましょう。

25th interview vol.4

西川さんと麻布テーラーとはかなり長いお付き合いになりますね。
いつもありがとうございます。

こちらこそです。メンズクラブの編集ページやタイアップページでいつも大変お世話になっております。

実はファッション誌の中で最初に麻布テーラーを取り上げてくださったのが1999 年9 月号のメンズクラブなんです。

今回、メンズクラブ編集部で麻布テーラーさんのブランド創設25 周年を記念するブランドブック『a WONDERFUL LIFE 素晴らしき、人生を』を制作させていただきましたが、その中の麻布テーラー25 年の歩みをふりかえるページでもそのことを紹介しています。その頃ボクはまだ編集部に入っていませんでしたが、改めてメンズクラブと麻布テーラーさんとは長いお付き合いなんだなと実感しました。

そんなメンズクラブの歴代編集者の中でも、西川さんとはとりわけ濃密な時間を過ごさせていただいた気がします。

トークイベントなども一緒にやらせていただきましたからね。

もちろん私たち以外にも、たくさんのブランドさんやショップさんと懇意にされてきたと思うのですが、麻布テーラーについて正直どのような感想を抱かれていたのでしょう。

ボクがメンズクラブ編集部に配属されたのは18 年前。ドレスクロージングについて右も左もわからない状態でしたが、それでも麻布テーラーが既存のテーラーのイメージとはまったく違うことを行おうとしていることはわかりました。
そもそもテーラーで毎シーズン展示会を行うところなんて存在しませんよね。しかも展示会では毎回テーマを設けていて、それが芯を食っているというか、我々がスーツ特集で次にやろうと考えていることといつもどこかリンクしていた。ピッティなどでトレンドをリサーチしている賜物でしょうね。展示会では来場者のためのブックレットまで用意しているのもすごい。あれはボクらの中では、ページを企画する上でのアンチョコにもなりました。だから展示会に伺うのが毎回楽しみで……。
トレンドを意識しつつ、根っこではトラディショナルなファッションを大切にしているところにも共感していました。メンズクラブもアイビーをはじめとするトラッドを軸として紹介してきたので、麻布テーラーとはとても相性がいいなと。

光栄です。私たちもメンズクラブさんとは親和性が高いなと感じていました。
また編集の方々がスーツは微差の世界だということを知り尽くしていますから、たとえばタイアップページなどで広告出稿する際も毎回面白い提案ができました。

そういえばメンズクラブの付録として麻布テーラーさんのオリジナルマフラーをつけたことがありましたね。

2011 年の2 月号ですね。メンズクラブさんの通算600 号でした。

うちの雑誌が付録をつけたのはあれが最初。あの号はやばかったですよ、メチャメチャ売れ行きがよくて(笑)。ちなみに誌面ではそのマフラーの巻き方を解説するページもあって、その記事は自分が書いた記憶があります。

2022 年には西川さんが指揮をとって弊社の秋冬カタログも作っていただきました。

ボクは麻布テーラーさんをずっと取材してきましたが、あれをやらせていただいたことで、「Cool(カッコいい)」「Cozy(心休まる暖かさ)」「Classic(本物)」といった麻布テーラーが大切にしている3つのキーワードや、ファッションテーラーという立ち位置がより深く理解できました。だからその後に25 周年のブランドブックを作るときも何も迷うことがなかった。

ブランドブックは、最初のプレゼンテーションの段階で、全ページの詳細なラフを作り込んでいらしてびっくりしました。しかもとても完成度が高くて。

せっかくお声がけいただいたんだから、中途半端なことはできないぞと気合を入れて臨みました。メンズクラブはスーツに強いということを改めて証明する良い機会にもなりますからね。実際の制作も編集部員総出で当たりました。麻布テーラーさん側も幅広い世代のスタッフからなるプロジェクトチームを発足してくださり、本当に良いマリアージュとなった。すごく楽しい仕事でしたし、私の編集者人生の中でもかなりの自信作に仕上がりました。

おかげさまでとても素晴らしいブランドブックとなりました。改めてお礼申し上げます。
ところで西川さんは本日お召しのマーリン&エヴァンス生地のセットアップをはじめ、過去に何着も麻布テーラーで仕立てられています。
私どものオーダーを体験されて何かお気づきのことはございますか。

そのときの自分の気分を見事に形にしてくださるなと、いつも感心しています。ある程度スーツの知識が増えてくると、個性を表現するためにオーダーの際にはあれこれこだわりたくなるものです。
麻布テーラーのスタッフは、それをいつも的確に受け止めてくれる。ひとつ説明すると先回りして感じ取ってくれると言いますか、生地にしろ、ディテールにしろ、「それでしたらこっちですよね」と提案してくれるんですよね。それがズバリと今の自分の気分と合致していて、本当に気持ちがいい。自分のスーツ知識の確認にもつながりますからね。初めて麻布テーラーを訪れた方でも、スーツについてそれなりに素養がある方であれば、このお店なら絶対にいいものを作ってくれると確信するはずです。もちろんスーツに詳しくない方がいらした場合は、丁寧にヒアリングを行い、その方にとってのベストなスーツとなるよう親身になって接客してくれるでしょう。実際にそんな現場を何度も見ています。

お褒めいただき、ありがとうございます。スタッフ一同、励みになります。

正直、このようなテーラーは他にないと思います。今はオーダーで服を仕立てることがブームですが、それを牽引する存在である麻布テーラーは、じつは自分たちをファッションテーラーと位置づけ、他とは別のポジションであろうとしている。そもそも麻布テーラーが提供しているのは、自分たちの型に当てはめるパターンオーダーではなく、もっと自由度の高いパーソナルオーダーですよね。つまりは、個々の好みにしっかりと寄り添いながら、時代のファッションにコミットし、その人を素敵に見せるスーツを作成している。ボクはだからこそファッションテーラーと表明しているんだと認識しています。ここはとてもリスペクトする部分です。

ブランドブックを作る上では、普段お会いできないような部門の方々にも取材させていただきました。そこで改めて感じたのが、麻布テーラーの生産背景の確かさ。たとえばそれは生地に顕著でしょう。ロロ・ピアーナやクロス エルメネジルド ゼニアなど国内外の名門生地メーカーへの別注生地を毎シーズン当たり前のように展開していますが、これは長い年月をかけて友好な関係を築き上げていなければできないことです。
もちろん自社で工場を持っているのも素晴らしいと思います。今回工場を初めて取材させていただきましたが、圧巻でした。もっと効率化されているのかと思いきや、全然そんなことはなかった(笑)。そもそもオーダースーツというものは、型紙も芯地の入れ方も一着ずつ異なるもの。加えて人によってはオプションをいっぱいつけるから、絶対に単純な流れ作業にならないんですよね。現代のテクノロジーを使いつつも、そこかしこで職人さんのハンド工程を多用している。もっとも世には全てを手縫いで仕立てるスーツもありますが、それだととんでもなく値段が跳ね上がってしまう。リアルな価格で最上級のスーツを提供しようとしたら、麻布テーラーの工場は最適解なんだなと実感しました。

オーダースーツが好況な一方、オフィスカジュアルなどの浸透で日常的にスーツを着ないというビジネスマンも増えています。西川さんは、今後スーツマーケットはどのようになっていくと見ていますか?
またその中で麻布テーラーにはどのようなことを望みますか?

スーツはどんどんファッションアイテムとしての側面を強めていくと考えています。もちろん、スーツについて仕事をする上での制服や作業着と考える人はこれからも変わらずいるでしょう。ボクらはそういう方々に対しても、こういうスーツを選ぶとオシャレですよという提案をしてきたんですが、最近それは意味ないんじゃないかと思えてきた。そういう方々にとって手に取りやすいスーツで十分なんですよ。
一方、コロナ禍を経てビジネススタイルの自由度が増したからこそ、逆にスーツをきちんと着ることの意義や楽しさに気づいたという人が確実に増えている気がします。けっしてマスではありませんが、服好きはそういうマインドになっている。だから麻布テーラーのようにスーツと真摯に向き合っているところには大きなチャンスなのかなと思います。
そうした流れを踏まえると、麻布テーラーはもっと自分たちの特別さを強く打ち出していってもいいのかなと考えています。たとえば選ばれたお客様に向けて外商的なサービスを行ってもいいし、フルオーダースーツなどを提供する隠れ家的なお店を作ってもいいんじゃないのかな。そういえば麻布テーラーさんって、ブランド名に“麻布” とつきながら、東京の麻布には一度もお店を構えたことがありませんよね。近い将来、麻布にそういうVIP のための特別なサロンを構えたらいかがでしょう。1日に数名のお客様しか取らず、スタッフもある意味スター性を備えた人材ばかりで固めて。
ボクがそのお店に行けるかどうかは別問題として(笑)、そういうふうにブランド価値をさらに高めてくれると、麻布テーラーの他の店舗でスーツを仕立てた人も誇り高いと思うんですよね。

なるほど。とても貴重なご意見をありがとうございます。
帰ったら上の者に伝えておきますね(笑)。本日はお忙しい中ありがとうございました。
今後とも変わらぬお付き合いをよろしくお願いします。

はい。これからも一緒にオーダースーツ文化を盛り上げていきましょう。

PROFILE

西川 昌宏

Esquire The Big Black Book ファッション・エディター
1975年生まれ。大阪芸術大学卒業。03年にアシェット婦人画報社(現ハースト婦人画報社)入社。
女性誌の編集部を経て、04年に「メンズクラブ」編集部に異動。14年に同誌副編集長、19年には編集長に就任。