真山仁さん(小説家)25th INTERVIEW No.2 | オーダースーツ・オーダーシャツの麻布テーラー | azabu tailor
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真山仁さん(小説家)25th INTERVIEW No.2

今回ご登場いただくのは『ハゲタカ』シリーズなどで知られる人気小説家の真山 仁さんです。じつは、服装に無頓着だった真山さんがスーツの魅力に開眼したのは、10年前に麻布テーラーの店舗を訪れたことがきっかけ。現在では、麻布テーラーの新聞広告やブランドブックにスーツにまつわるショートストーリーを寄稿していただくほど、独自の見識を養っていらっしゃいます。ビジネスパーソンにとってスーツとはどういう存在なのか?
真山さんのスーツ観をじっくりうかがいました。

  • Photo :Masaaki Sakou
  • Text :Iwao Yoshida
25th interview vol.2

いつもダンディな装いでテレビなどに出演されている真山さんですが、麻布テーラーと出会うまでは服装に無頓着だったと伺いました。

小説家は中身が勝負と考えていて、お洒落にはまったく興味がありませんでした。ところが、ある雑誌の依頼でF1 のシンガポールグランプリを取材することになり、同行する編集者から、「誌面には先生のお写真も載るので、ちゃんとした服を作ったらいかがですか?」と提案された。そこで彼とスタイリストさんの案内で麻布テーラーの表参道店に赴き、初めてスーツを仕立てました。

初めて訪れた麻布テーラーはいかがでしたか?

テーラーは敷居が高いものと思っていましたが、その固定観念が完全に覆りました。とても居心地が良く、リラックスしたムードの中でカウンセリングや採寸が進んでいった。もちろん仕上がりにも満足しました。生地選びなどはほとんど同行のスタイリストさんにお任せしたのですが、できあがったスーツを着て鏡の前に立ったら、自分がスマートに見えてびっくり。周りにも「痩せた?」と聞かれたほどです。きちんと採寸して自分の身体にぴったりしたスーツを仕立てると、こうも違うものかと実感しました。こういうスーツに身を包んでいれば自信も湧くし、人生の大事なシーンの後ろ盾となってくれるだろうとも思いました。そのことを伝えたくて、その後に書いたハゲタカシリーズの5作目となる『シンドローム』に、麻布テーラーを実名で登場させたほどです。

当時、雑誌『週刊ダイヤモンド』で連載中の『シンドローム』に麻布テーラーが登場していることを知り、我々も大変驚きました。

買収される企業などはさすがに架空のものですが、作品に登場する会社やお店、嗜好品などは、できるだけ実在するものを選んでいます。物語のリアリティが増しますし、登場人物の社会的立ち位置や性格を説明するにも、固有名詞を出したほうが手っ取り早い。ちなみに『シンドローム』では、主要登場人物である青年が、大学生から社会人となる節目に、叔父に麻布テーラーに連れていかれます。そして、社会に出るなら、どこに出ても臆さない一着を持っておくべきだとオーダースーツをプレゼントされる。そして物語の後半の大切な場面で、彼はそのスーツに袖を通すのです。

麻布テーラーをとても印象的なシーンで使っていただき、
本当に恐縮でした。あわてて弊社のプレスがお礼の連絡を差し上げ、そこから麻布テーラーと真山先生との関係が深まっていくんですよね。

ある日、麻布テーラーさんから「真山さんのブランディングを私たちに任せてください」と申し出がありました。私がお洒落に疎いことを見かねたのでしょうか、人前に出るときの衣装を担当してくれるというんですね。ちょうどその頃からメディアに出る場面も増えてきて、私自身も「小説家・真山仁」のイメージを壊すわけにはいかないなとも考え始めていたので、ありがたくその話に乗らせていただきました。

最初はブラック系のスーツが多かったようですね。

麻布テーラーさんから、「黒と白のモノトーンに徹したほうがいい。書いている小説のイメージにも合う」と言われまして。ただ、当時NHK 大阪局制作の経済番組『ルソンの壺』コメンテーターとして出演していたのですが、視聴者から朝の番組なのに葬式みたいな服だとクレームが来てしまった(笑)。「じゃあネイビーですね」となり、しばらくは濃いネイビーのスーツを中心に着ていました。

最近はベストを着用したスリーピーススタイルが多いイメージです。

ベストは気になるお腹周りを隠せるという利点もありますが、私という個性を打ち出すときにも重宝するアイテムと考えています。取材をするときは基本的に自分の個性を殺したほうがいいという考えは新聞記者の時代から変わりませんが、先ほどもお話しした通り、メディアに登場するときなど、小説家・真山仁の個性を出さなければならないことも増えてきた。私の場合、個性を出す際に重視すべきポイントが二つあって、ひとつ目は、自分で言うのもおこがましいのですが、“知性”。つまり賢く見せたい(笑)。そうすれば言葉に重みが出ますから。二つ目は“強さ”。「ハゲタカ」の主人公である鷲津のイメージの延長で作者の私も見られるため、目立つ必要はありませんが、ある程度はタフな男だと印象付けたい。ベストを着用したスリーピーススタイルは、その二つを表現するのにとても適しています。

麻布テーラー創業25 周年記念で発行したブランドブック
『a WONDERFIUL LIFE 素晴らしき、人生を』に、真山さんはショートストーリーを3篇寄稿してくださいました。そのうち1篇は、手強い商談相手に対して、一張羅のスリーピースを着て臨むビジネスマンのお話でしたね。
文字数が限られているにもかかわらず、スーツはビジネスマンにとって、ときに心強い“鎧” となるというメッセージが伝わってきました。

今回の3篇は、麻布テーラーのブランド理念にもつながる「Cool(カッコいい)」、「Cozy(心休まる暖かさ)」「Classic(本物)」という3つのキーワードを与えられて書いたものです。どのエビソードも最初はあの3倍ぐらいの文章量でしたが、削って、削って、あの形になりました。もともと私は説明過多な文章にならないよいう心がけていますが、いつも以上に削ぎ落とした結果、行間にいろんなものを含ませることができたんじゃないかなと考えています。

どのエピソードからも、スーツを着る意義や楽しさがしっかり伝わってきて、スタッフ一同感動しました。
ところで真山さんは、取材でいろんなビジネスの最前線を多数取材されています。
今のビジネスパーソンの装いを見て、何か思うところはありますでしょうか。

スーツをきちんと着ている人が減りましたね。とくにIT 系などベンチャー企業の若い経営者は、ジャケットにTシャツというようなラフな格好ばかり。とはいえ、たとえば歴史ある企業の重職についている方は、皆さんご自分の身体にあった上等なスーツを着用されています。そうでないと企業の看板は背負えないんでしょう。そういう意味で、ビジネスシーンにおいては、いまだスーツは制服であり、最高の戦闘服です。まだまだ経験の足りない若い人こそ、スーツに守られなくてどうするの? という気もしますね。ただ私は、そこにもう少し洒落感や個性を加えてもいいのではないかとも思います。それこそショートストーリーで取り上げた「Cool」、「Cozy」「Classic」の3つのキーワードを、スーツを着るときのテーマにしても面白いんじゃないかと。そんなふうにして自分の主張を込めてスーツを着る人が増えると、日本の景色も随分変わるでしょう。

麻布テーラーに対して今後望むことなどありますか。

どの店舗を訪れても、スタッフの皆さんは心から服が好きなんだということがわかります。これってじつはとても珍しいことなんですよね。世にはいろんな職業がありますが、好きだからその仕事に就いたという人は意外と少ないもの。たとえば大手出版社の社員でも、肩書きが欲しくて入社している、小説や雑誌に興味がない人も割といます。麻布テーラーは服好きな人が集まっていて、お客様がよりよいライフスタイルを送れるよう、服を通してマネジメントしていこうという情熱を感じる。こうした麻布テーラーの雰囲気は、これからも変えて欲しくないですね。

ありがとうございます。全スタッフの励みになる言葉だと思います。
今後とも麻布テーラーを愛してやってくださいませ。

もちろんです。麻布テーラーは私に装うことの大切さを教えてくれた存在ですから。こちらこそ末長いお付き合いをお願いいたします。

PROFILE

真山 仁(小説家)

1962年、大阪府生まれ。大学卒業後に新聞記者、フリーライターを経て、2004年に投資ファンドや企業買収の舞台裏を描いた『ハゲタカ』でデビュー。そのほかにも『当確師 正義の御旗』『ロッキード』など、社会問題をテーマにした著書を多数執筆。